精神科の患者さんに限らず、嫌な記憶・トラウマ・イメージに苦しむ人は多いと思う。
この記事では、記憶の「再固定化」という現象に着目して、苦しみを和らげる方法を考えたいと思う。
今回対象とする記憶・トラウマ・イメージは、過去でも今でも未来でもよく、またその内容は現実でも妄想でも空想でも構わない。
頭の中に浮かぶ全ての不快なイメージを対象にしたい。
考えたくないこと、思い出したくないことを頭の中につい描いてしまい苦しむのは、そのイメージ自体に毒があるのではなく、そのイメージが頭の中に再生された時に、不快な感情や身体感覚を伴うからである。よって、目指すべきゴールは、そのイメージを頭の中から消し去ることではなく、そのイメージと不快な感情や身体感覚を切り離すことである。
方法はシンプルで、安全でリラックスできる環境で、自らそのイメージを頭の中に描き、冷静に見つめ、安心安全を確認することである。
手順
①静かで安全な場所で椅子に座り、目を閉じ、リラックスして深呼吸をする。そして全身に意識を巡らし、どこにも痛みや違和感がないことを確認する。
②嫌なイメージを思い浮かべ、できるだけ感情で反応せずに、じっと見つめる。できれば同時に深呼吸を続け、全身に痛みがないことを確認しながらイメージを見つめる。そのイメージが勝手に終わるまで見つめ、最後までリラックスを意識する。
嫌な記憶やイメージが、不意打ちのように頭の中に描かれると、一瞬のうちに嫌な感情や身体感覚で反応してしまい、慌てて記憶やイメージを消そうとして、苦しむことになる。なんとか気を紛らわせて追いやっても、その時の不快な感情や身体感覚のまま記憶やイメージが頭の中に再固定されてしまうため、それはまたいつ襲ってくるか分からないし、襲ってきたときは同じように苦しむことになってしまう。
一方、環境を整えた上で自ら思い出しにいくと、不意打ちと比べると不快な感情や身体感覚を抑えることができる。その状況でその記憶やイメージを見つめ、不快な感情や身体感覚が少ない状態で再固定することで、その記憶やイメージの潜在的な毒性を緩和していくことができる。
重要なのは、イメージを見つめながら、心と身体のリラックスを意識して、そのイメージを見つめても心や体に何も起きないことをしっかり確認することである。ゆっくりと深呼吸し、なるべく脈を下げる。また、全身に意識を巡らせ(特にザワザワしやすい胸やお腹のあたり)、痛みや違和感がないことを確認する。リラックスの方法は、ため息をついたり、筋弛緩法(肩に力を入れ、しばらく保ち、ストンと落とす方法)などでも良い。
これらを同時に行うのは難しいと感じるかもしれないが、繰り返しやっているとできるようになる。
(呼吸や全身の見つめ方は、ぜひヴィパッサナー瞑想の記事を参照いただきたい。)
これまでは、一度固定化された記憶の改変は難しく、つまり不快な感情や身体感覚もセットで長期保存されてしまうと考えられていたが、近年の研究で、それは編集したうえで上書き保存できることが分かってきた。その過程を再固定と呼ぶ。嫌な記憶やイメージを頭の中に思い浮かべている間は、まさに編集が可能な状態で、その時間を不快な感情や身体感覚を抑えた状況で過ごし再固定することで、より望ましい状態で上書き保存ができる。この作業は、不意打ちで思い出してしまった時には難しいが、自ら環境を整えたうえで行えば可能である。
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