精神分析的精神療法を受けはじめてしばらく経ってから気づいたのは、自分の分析を担当する分析家が、頭の中に棲みつくようになったということだ。ふとした瞬間に頭の中で分析家と会話をしている自分に気づく。次回のセッションでこんなことを言ったらこんな風に返されるかなと妄想を膨らませながら生活している。分析家の前では自由連想のルールゆえ、話してはいけないことがないから、頭の中で見せられない部分がないのである。どれほど仲の良い友達や家族であったとしても、話せないことや、話すのにタイミングを選ぶことは存在する。相手が大切であるがゆえにしまっておかなければいけない、本能的な攻撃性や社会通念上許されない欲求などが人には存在する。しかし例えば、もし分析家の前で「分析家を殺したい」という考えが浮かんだとしたら、それをそのまま口に出すのである。もちろん殺してはいけないが、口に出すことは自由であり、むしろそれが要求される。そんな唯一無二の特殊な存在が分析家であり、他の誰にも代替されない話し相手が現実と脳内に存在するようになる。会う時間より会わない時間の方がもちろん長いが、そのような特殊な存在が頭の中に棲みつくため、精神生活が根本的に変わると言っても過言ではないだろう。
③へ続く。
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