自己肯定感の低さに悩む人は多い。
ところで、自己肯定感とは何か。
無条件で自分は大切で満たされた存在と思えること、自身の思考や感情、身体の居心地の良さ、などだろうか。
幼少期の家庭環境とその後の本人の自己肯定感には、強いつながりがあると思う。
赤ちゃんを思い浮かべると分かりやすい。
お腹が空いても、眠たくても、寂しくても、とにかく泣くことしかできない。
それを察して親がその都度構うから、赤ちゃんは心身ともに満たされる。
それが何度も何度も繰り返されるうちに、今満たされていなくとも少し待てば親が満たしてくれると無意識に信じられるようになり、穏やかに過ごせる時間が増える。「満たされていない」状態を「満たされている」状態に親が変えてくれるわけだが、それが繰り返されることで親という存在が赤ちゃんの内側に刷り込まれ(内在化)、まさに目の前に親がいて構ってくれなくとも、「満たされていない」ことへの強い不安や恐怖を抱くことなく過ごすことができるようになる。
この内在化された親(もちろん実の親でなくとも保護者に当たる人は含まれる)が自己肯定感のベースになると言われている。
一方、幼少期の家庭環境で満たされなくとも、その後の環境次第では自己肯定感は育つとも思う。残念ながら自己肯定感は「心の持ちよう」などではない。少し意識して変えられる程度のものではなく、もっと心と体の深いところに刻み込まれたものだ。しかし成人してからでも自己肯定感を育て直すことはできると思う。シンプルに、親密な人間関係の中で、自分の心の欲求を繰り返し満たしてもらうことだ。
しかしこれが簡単ではない。赤ちゃんの頃と違って大人の欲求は複雑だ。刹那的な快楽で欲求を満たしても、自己肯定感は育たない。高級品を買っても(買ってもらっても)、高いレストランに行っても(連れて行ってもらっても)、その時はテンションが上がって楽しいかもしれないが、自己肯定感には繋がらない。この点を勘違いしている大人が非常に多い。SNSによって刹那的な快楽を想起させる情報に曝露しすぎているのが一因だろう。もちろん贅沢も経験としてはプラスだが、自分の根本的な肯定感の問題を解決する策として当てにするのは検討違いだ。
ではどうすればよいか。自己肯定感を育てるのは、異性でも同性でもよいから長期的に安定した人間関係を築く努力をすることにつきると思う。自己肯定感が低い人こそそれが難しいのであるが、その努力をする以外方法はないと思う。手っ取り早い解決を求めて投薬治療を求める患者が多いが、自己肯定感は薬では育たない。自己肯定感の低さからくる抑うつを一定期間和らげ、それを自己肯定感を育てる努力の足がかりにするというのであれば、投薬の意義は大きいと思う。
「親ガチャ」という言葉が流行るが、確かに自己肯定感を育ててくれる親は貴重だ。小学生くらいになると本人の欲求を満たすことより(本人に良かれと思って)大人の都合を押し付けることが増えてしまいがちだが、自己肯定感が育つことを阻害してしまう可能性もある。自己肯定感の高い人は収入や地位によらず幸福感が高いと思う。どの年齢であっても、自己肯定感は、親密な人間関係の中で本人のありのままの欲求に応える姿勢を見せることで育つ。親は子を産んだ責任として、勉強やマナーを押し付ける前に、自己肯定感を育てることを意識すべきだ。
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