嫉妬①

精神医学

「嫉妬」に関する下記の二つの書籍を読んだ。

「嫉妬の正体」谷沢 永一, 祥伝社, 2020/10/31

「嫉妬をとめられない人」片田 珠美, 小学館, 2015/10/1

そもそも、一冊目の「嫉妬の正体」で言及されていることだが、「嫉妬」について熱く語る行為は一般的に恥ずかしい。「嫉妬」について熱く語れば語るほど、煮え繰り返る嫉妬を抱えている痛々しい人と見られてしまうのではないかと思ってしまうからだ。したがって、もし自分が「嫉妬」に関して本を書くとなれば、それは匿名ではないから、相当な恥ずかしさを覚悟する必要があると身構えてしまうが、一冊目はその点に言及することで恥ずかしさを回避し、二冊目は堂々と「自分が嫉妬という感情に苦しんだことをきっかけに本を書くことにした」と言い切ることで乗り越えていた。そのような観点から他の嫉妬論を読むのも面白いだろう。

一冊目は文学の教授が、二冊目は精神科医が記したものだが、どちらでも言及されていることとして、嫉妬は皆が苦しむ人間の根源的な感情で、誰しもがその扱いに苦労している、という点だ。それは自分の経験からも、臨床現場でも、痛感するところである。

嫉妬はあまりにも根源的な感情であり、消し去ることは難しいであろうから、下記のように二つの方針を持つことが良いのではなかろうか。

  1. ほどよく嫉妬を利用する
    一冊目の「嫉妬の正体」で著者が絶賛するパナソニック創業者の松下幸之助が言い残した、「嫉妬心は狐色に程よく妬かなければならない」という思想はやはり有用であると思う。忌み嫌われることの多い「嫉妬」だが、実は仕事でも、プライベートでも、重要な活力の源になっていることが多く、嫉妬の効力と害悪を理解した上で程々に嫉妬心を抱き、それをエネルギーに変えていく、というのは重要で有効な姿勢なのではなかろうか。
  2. 嫉妬を抑制する(嫉妬で苦しみすぎない)
    こちらはブッダにすがるしかない。嫉妬のエネルギーは尋常ではないため、一度嫉妬心を抱くと、頭の想像力の助けも借りて、延々と嫉妬して苦しむことになる。論理的な思考で解決するのはほとんど無理である。程良ければ活力を与えてくれる嫉妬心だが、それに完全に囚われてしまうと苦しくて苦しくて動けなくなり、生活が破綻して、場合によっては抑うつになってしまう。したがって、日頃から瞑想など心を観察する手段を身につけておき、嫉妬心の発現に即座に気づき、程よいところで空想や妄想を止めないといけない。自分が嫉妬していることに気づいた途端に「あっ、今自分は嫉妬している」と、思考や感情に「嫉妬」という名のラベルをつけ、空想や妄想に終止符を打つためのルーチンにすることも有用と言われている(このラベル付けという技法は嫉妬に限らず様々な不快な思考や感情に対し有効と言われている)。

嫉妬論は匿名だから伸び伸び書くことができる。実名で論じた方々には頭が上がらない。

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