日頃精神科外来で患者さんを診る中で、たまに、「この患者さんは精神科を頼らない方が良いだろう」と思うことがある。しかしそれをそのまま患者さんに上手く伝えることが出来ず、もどかしい。そんな葛藤をご紹介したい。
仕事がつらくて精神科を受診する人は多い。筆者はいくつかのクリニックを掛け持ちしているが、ターミナル駅の駅前にあるクリニックには、仕事の悩みを抱える患者さんがたくさん来る。
その多くは「適応障害」という単一の診断になるが、仕事の悩みといっても千差万別で、自分の能力不足を嘆く人もいれば、人当たりのキツい上司のクレームを訴える人もいる。そんな中、筆者が心配してしまうのは、他責傾向の強い患者さんたちだ。
自分には一切非がなく、とにかく周りの人や環境が悪いと嘆く患者さんたちは、治療に難渋する傾向がある。他の精神疾患においても言えることだが、どこまでが病気や環境のせいで、どこからが自分のせいなのか、という問題がつきまとう。
もちろん厳密な線引きは不可能だが、私たち医師は、基本的には病気や環境のせいだと捉え、それぞれに介入する。病気のせいだと思えば投薬を行うし、環境のせいだと思えば休職や転職の助言をする。しかし、患者さん自身は、「自分のせいである」という認識が少なからずあった方が良いと思う。
なぜなら、実際の原因が病気や環境であったとしても、自分自身で変えられることを探して努力する方が、適応力が高まるからだ。医師が提供する薬や環境調整の力を借りることは重要だが、そこに頼りすぎてしまうと、何か少しでも不満があると、それを薬や環境のせいにするくせがついてしまう。そうやって生きてきた患者さんは、少しでも不満があると治療にクレームをつけ、担当医師を変え、クリニックを転々としていく。リップサービスの上手い精神科医に一時救われることがあるかもしれないが、長期的には何も良くならない。
ただ、やはり、現実的には難しい問題である。
「医療に頼り過ぎず、自分の力でもっと頑張りましょう」などと言われてしっくりくるには、すでにその医師を十分信頼している必要があるが、診療時間や回数が足らず、そこまでの信頼関係を構築できないと感じることが多々ある。特に、鼻から医師との信頼関係の構築を求めずに、休職診断書の発行だけを求めてくるような患者さんたちとは、腹を割って話し合うことがとても難しい。そこで休職診断書の発行を渋っても、おそらく他のクリニックを受診するだけであろうから、あまり意味がない。一番もどかしいと感じる瞬間である。
頼ってほしいけど、頼り過ぎないでほしいというジレンマの中で、良き中道を模索したい。
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