境界性パーソナリティ障害を含め、強い感情に圧倒され苦しむ人は多い。精神科に通う人も、無縁な人も、喜怒哀楽(特に怒・哀)が強すぎて毎日が苦しい人は多くいるだろう。その強すぎる感情を、抗不安薬や抗うつ薬で少し和らげることはできるが、完治は難しい。
弁証法行動療法は、そんな強い感情に圧倒され苦しむ人を救う数少ないエビデンスのある心理療法だ。弁証法という単語のせいで難解なイメージが強く、臨床の場でも認知行動療法や、最近流行りのスキーマ療法と比べ嫌煙されがちだが、実は理論は単純明快で、人によっては一番しっくりくる心理療法となるだろう。
弁証法というのは、一見対立し、両立困難に見える二つの事柄を、同時に成り立たせようとする試みのことだ。
物凄く簡単に弁証法的行動療法を説明するとすれば、変えられない苦しい過去を受容し、変えられる不安な未来は変化させていこうとする治療法だ。受容と変化は一見矛盾するため、これを指して弁証法という名前がついているが、すこし大袈裟であるとも思う。
自分を苦しめていることのうち、どうしても変えることができないものに対しては、心地よく受け入れる他ないから、主にマインドフルネスの技術を使って徹底的に受け入れる。
自分を苦しめていることのうち、変えることができるものに対しては、主に対人関係スキルを用いて変えていく。弁証法的行動療法は、主に対人関係の苦に焦点をあてている。
なお、より有名な心理療法である認知行動療法は、主に変化に焦点を当てており、感情や衝動が強すぎる患者には適応しづらいという問題点があった。弁証法的行動療法は、感情や衝動が強すぎて理性的な判断を失ってしまうような患者に対しても有用である点で、認知行動療法とは一線を画す心理療法である。
コメント